-泰衡様観察日記(裏話)-


事の始まりはこんなことから。


「みんなで交換で日記を付けてください!」

「「「は?」」」


神子様の突然の提案。
もちろん銀含む八葉のみんな、わけがわからないと首を傾げる。


「望美さん、どうしていきなり日記何ですか?」


弁慶さんが代表してみんなの疑問を神子様に尋ねた。
すると、神子様は提案の理由を説明。
要約すると、今は現代に戻っていて、たまにこっちに来ている神子様。
だから、自分がいない間にあったこと、少しでも知りたいから、とのこと。


「なるほど。」


神子様の意見に一同納得。


「じゃあ、せっかく平泉にいるわけだし、銀からスタートしよう!
 はい、よろしくね♪銀♪」

「畏まりました、神子様のためなら。」


と、言うわけで…神子様のためにみんなでつけることになった
平泉報告日記』は銀からスタートすることに。

それが何故ああなったのか…。



***



まず、トップバッターの銀。


「何でも良いんですよ、その日あったことで。」


どんなことを書くべきか迷った銀だったが、
神子様の言葉を思い出し、
素直にその日あったことを、綴ることにした。

常に行動を供にしている銀の日記に、泰衡様の名前が出てくるのは必然。
特に変なことも書かれてはいない…はず。

日記をつけた銀は次に敦盛さんに渡した。


***


次に敦盛さん。別段かわりない日記。
ただ、偶然泰衡様の姿を見かけたのでそのことも記入した。
偶然にも二日目も泰衡様の名前が出てきたことになる。


***


さて次は弁慶さん。
何気なく読み返すと、何故か登場している泰衡様の名前。

「面白いですね…。」

弁慶さんはふっと何か含むような笑いをすると筆を取った。


***


弁慶さんまで記入して、日記は一度神子様の手に。
何気なく読み返すと、何故か泰衡様の名前が毎日のように登場している…。

それを読んだ後、記帳した神子様は自然と泰衡様のことを記帳してしまった。
おまけにそのことに対する疑問も。


***


そして次に日記を受け取ったのは九郎殿。
九郎も普通にその日のことを記帳したが、
皆が書いたものを読み返して感じるのはやはり泰衡様のこと。

皆が書いているのだから書いた方が良いものなのかと
九郎殿も泰衡様のことを記帳した。


***


そして次のリズ先生。
先生は特に記帳することが思いつかず、皆の日記を参考にすることにした。

つまり…。


***


ここまで来ると、すっかり趣旨が変わっていた。
ある者は無意識に、ある者は確信犯で…。

神子様の留守中の平泉についての『平泉報告日記』だったものは、
いつのまにか平泉総領藤原泰衡様についての『泰衡様観察日記』になっていた…。



***



「おや、白龍書けましたか?」

「うん、書いたよ。次は誰に渡せば良い?」

「そうですね…。」


日記を書き終えた白龍はたまたま部屋にいた弁慶さんに尋ねた。
白龍が記入し終え、一先ず平泉に滞在している人たち(+言いだした神子様)
は記入を終えたことになる。次はどうすればいいものか…。


「神子に渡せば良い?」


白龍は日記片手にそう言ったが、
弁慶さんは何事か考えるとにっこり笑った。


***


「え?日記ですか?」

「うん。皆書いたからも書いてほしいんだって。」


白龍は日記を持って伽羅御所へ来ていた。
ここまで皆に書いてもらったのだから、
ついでににも書いてもらってはどうかと弁慶さんが提案したのだ。

は最初戸惑っていたが、今は中々平泉に来ることができないでいる
神子様のためだと言うことで最後は了承し、日記を受け取った。


「あの…でも、何を書けばよろしいのですか?」

「何でも良いって。皆のを参考にしたら良いそうだよ。」

「そうですか。わかりましたお預かりします。」

「うん、よろしくね。」

「はい!」


白龍はが日記を受け取ると帰っていき、
は一先ず仕事を終わらせるべく、
日記は部屋に置いて通常どおり仕事をした。



***



「えっと…何を書いたら良いでしょうね…。」


仕事を終えて部屋に戻ったは日記を持って考えていた。
が、思いつかないなら皆のを参考にしてみると良いと言われたので読んでみることに…。


「あ…銀さんも書かれているんですね…。」


一番最初は銀の日記から始まっていて、
敦盛さん、弁慶さんと続いている。


「……泰衡様のことを書かれている方が多いですね…。」


目を通すと明らかだが、何故か泰衡様の名前が多い。
泰衡様が皆に好意を持たれているのなら、
従者としては嬉しいことだが…。


さん、すみません。」

「あ、はい!」


が中程まで日記を読んだ時、銀がを呼んだ。


「泰衡様がお呼びなので来て頂けますか?」

「わかりました。」


泰衡様に呼び出され、は慌てて
日記を持ったまま泰衡様の所へ向かった。


***


「泰衡様、失礼します。です。」

「入れ。」

「はい。」


泰衡様の部屋に行き、声をかけると、
泰衡様はいつも通りの返事をし、を部屋に招き入れた。


「何か御用でしょうか?」

「いや…用事というか…これをな…。」

「?」


が部屋に入ると、
泰衡様は少し躊躇いがちに何かをに差し出した。
小さな袋の様なものだ。


「お前にやろう。」

「え?…よろしいのですか?」

「……ああ」

「ありがとうございます!あの、開けても…?」

「構わん。」


袋も模様も可愛らしいものだったが、
受け取ると中に何か入っているのがわかったは、
泰衡様に許可を得て袋を開けてみた。


「……わ!綺麗ですね!」

「…気に入ったか?」

「はい!ありがとうございます!泰衡様!」

「……///


がにっこり笑ってお礼を言うと、泰衡様は少し赤くなり、
照れ臭そうにしたが、嬉しそうな顔をしてくれた。

袋に入っていたのは見た目も鮮やかな飴玉だった。


(飴…)

「あ!泰衡様…この飴は…薬屋さんの横のお店で買われたのですか?」

「何故それを…」


思い出したように言ったの言葉に、
泰衡様は驚いたように言ったが、
言った言葉にハッとなり、慌てて言い直した。


「…あ、いや、買ってきたのは銀だ…;」

「そうですか?」


何故か不思議そうな顔をするに泰衡様は訝しげに尋ねた。


「何故そんなことを?」

「あ、いえ…泰衡様がそこへ行かれたことがあると、
 神子様からお借りしている日記に…」

「日記?神子殿の?」

「神子様と言いますか皆さんが書かれているみたいで、
 私にも書くようにとお預かりしました。」

「……それがそうなのか?」


の返事に泰衡様はますます顔をしかめ厳しい表情に…そして日記を睨み付けている。


「あ、はい、そうです。」


泰衡様の視線に日記を持ってきていたのだと気付き、
は日記を泰衡様に見せた。


「その中に…俺のことが…?」

「はい。」

「…お前は全部読んだのか?」

「いえ、まだです。」

「……貸してみろ」

「え?この日記ですか?」

「ああ、」

「?はい。」


何故か険しい泰衡様の雰囲気に、は首を傾げたが、
言われたとおり大人しく日記を泰衡様に渡した。


「…………」

「…………」


しばし沈黙。
だが、日記に目を通している泰衡様の顔が、
段々と鬼気迫るものになってきているのはにもわかった。


「……あ…の…;泰衡様?」


まだ全てに目を通していない
何か泰衡様に取って良くないこと(?)でも書いていたのか…。

が声をかけると、泰衡様は、

「少し出る。」

と言って立ち上がった。


「え?ど、どちらに?」

「すぐ戻る。」

「はぁ…えっと…それは…」

「…これは俺が預かる。」

「は、はい!」


どことなく厳しい雰囲気。
日記のことに触れると、それが明らかになり、
押さえ込んではいたが威圧的な口調にも思わず従い、
見送るしかなかった。



***



「神子殿はいるか!!」


屋敷を出て泰衡様が向かったのはやはりと言うべきか…高館。
屋敷に入るなりそう叫んだ。


「何ですか…不躾に…、望美さんはまだいらしていませんよ。
 …おや、泰衡殿ですか…。」

「弁慶…大体貴様が…」


出てきたのは弁慶さんで、泰衡様は顔を見るなりそれは恐ろしい顔で弁慶さんを睨んだ。


「何のことでしょう?」

「とぼけるな!何だこれは!!」


日記を突き付け弁慶さんを怒鳴った。


「ああ、それは…けど、僕は別に変なことを書いたつもりはないですよ?」

「なんだと…?」

「だって事実でしょう?」

「…………」


弁慶さんの言い分に泰衡様詰まる。
だがにこやかに笑っている弁慶さんの笑顔は明らかに黒かった…。


「どうしたんだ?」


そんな険悪な雰囲気丸出しの所へやってきたのは九郎殿。


「何だ、泰衡どうかしたのか?」


不機嫌な顔の泰衡様に九郎殿は声をかけたが、
泰衡様は九郎殿にもキッとキツイ視線を投げ、

「九郎!大体お前までなんだ!」

と怒鳴った。


「な、何のことだ?」


もちろんやってきたばかりの九郎殿は何のことかわからず首を傾げる。


「あの日記のことですよ、九郎。」

「日記?」


弁慶さんの言葉を聞いて、泰衡様が持っている日記を見て、
九郎殿は納得したように頷いた。


「ああ、それか。…それがどうかしたのか?」


だが、反省(?)の色は全くない。
と言うか九郎殿は泰衡様が怒っている理由すらわかっていないだろう。
泰衡様は九郎殿の反応に苛立ちつつも、九郎殿に悪気がないこともわかっているので、
半ば脱力しつつため息をついた。

そして、


「ともかくこれは焼却する!!」


と言って日記を持ったままバン!と高館を出ていった。



「…………拍ト却!?お、おい!泰衡!それは望美の…」

「全く仕方のない人ですね…。」


泰衡様の言葉に九郎殿は慌てたが、弁慶さんは冷静だった。


「おい、弁慶…」

「大丈夫ですよ九郎。」

「?」

「ちゃんと控えがありますから。」

「は?」


余裕の弁慶さんは懐からまた別の書物を取り出して、にっこり微笑んだ。


「……控え?」

「ええ、こんなこともあろうかと書き写しておきました。
 望美さんにはこれをお渡ししましょう。」

「そうか…それなら良い…のか…?」


全く抜かりない軍師殿だった。
九郎殿は何だか釈然としなかったが、日記が無事と知って一先ず安堵した。
泰衡様は怒っていたが、神子の知らないところで日記がなくなっても困るから…。


「九郎、日記がまだあることは泰衡殿には秘密ですよ。」

「ん?…ああ、わかった…。」


そんなこんなで実はまだ現存している日記。
もしかしたら泰衡様の知らないところで日記はまだ綴られているのかもしれない…。



***おまけ

「あの…泰衡様、先程の日記は…?」

「……神子殿に返した…。」

「え!私まだ書いていませんが…?」

「……お前はもういい…。」

「はぁ…そうですか?」

「ああ。」

「…それにまだ全部見ていませんが…」

「お前は見なくていい。」

「でも、泰衡様のことが書かれているなら見たかったです…。」

「……どういう意味だ?」

「私が泰衡様とご一緒にいられる時間は限られていますから。
 そうじゃない時、泰衡様がどのように過ごされているのか興味深かったんですけど。」

「…………」

「泰衡様のこと、もっと知りたいですから。」

「!……///

「(にっこり笑顔)」

「お前は…」

「?」

「そんなことせずとも俺の傍にいれば良いだろう…。」

「……え?」

「行くぞ、///

「…あ、はい!」




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2012.05.26